
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のウェス・アンダーソン監督が、またもやオシャレで脱力系なハートウォーミング(!?)家族ヒューマンドラマを届けてくれた。
今回の舞台となるのは──混沌の国・インド。
父の死をきっかけに疎遠になっていたホイットマン3兄弟(長男フランシス、次男ピーター、三男ジャック)は、フランシスの呼びかけで1年ぶりに再会。インド北西部を駆け抜ける“ダージリン急行”に乗り込んだ彼らは、ふたたび兄弟の結束を固めようと集うわけだが……傲慢なフランシス、短気なピーター、そしてマイペースなジャックと、まったく大人になりきれていない3人の旅路は、もちろん珍道中だ。
「以前から列車を舞台にした映画を作りたかった。移動するロケーションというアイデアが好きだからね」と語るアンダーソン監督は、列車のほかにも興味を持っていたテーマ“インド”、“兄弟”をあわせて本作『ダージリン急行』の構想を練った。そして友人のジェイソン・シュワルツマンとロマン・コッポラに「一緒に映画の脚本を書かないか」ともちかけ、パリで3人で脚本を書き始める。そのうち、アンダーソン監督が「インドへ行ったほうがいいかも」と提案し、実際に3人でインドを旅した結果がこの『ダージリン急行』である。

インド政府から借りたという本物の列車にスタッフ・キャスト全員が乗り込み、実際にインド北西部の砂漠地帯を走らせながら、まるで本当の旅をするように行われた撮影ゆえか、本作は一種独特なリアルさが垣間見られる。もちろんドキュメンタリー作品ではないのだが、兄弟のふとした視線のやりとりや乗務員との距離感、はたまたそれを捉えるキャメラの視線が一瞬、ドキュメンタリーと劇映画の境界を行き来しているかのような錯覚におちいるのだ。その感覚が妙に心地よく、観客である我々も──幸か不幸か──このハチャメチャな兄弟の旅路にたまたま乗り合わせてしまった乗客のような気持ちになってくる。それゆえ身体的には、列車を追い出された兄弟が小さな駅で途方に暮れてからが、体感として本格的に「映画を観ている」状態になり、そこから一気に展開していくストーリーにおのずと引き込まれていくのだ。
ところでアンダーソン監督の映画は冒頭で述べたように、いつも、何かしらオシャレである。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』では新鋭カレン・パッチが3兄弟のコスチュームをアディダス、ラコステ、フィラで発案し、『ライフ・アクアティック』では本作でも衣装デザインを手がけるミレーナ・カノレロが赤いニットキャップに水色の隊服、というユルいながらも小粋なスタイルを提案。そしてついに本作『ダージリン急行』では、ルイ・ヴィトンのチーフ・デザイナーで、ファッション界の革命児とも称されるマーク・ジェイコブスが、映画で重要な役割を果たすスーツケースのデザインを手がけることとなった。このスーツケースはまさに『ダージリン急行』の“脱力+奇妙”な世界観をオシャレに彩る贅沢なアイテムである。

上記以外にも、今回も期待に漏れず魅力がたくさん詰まった(※本編前に上映される短編『ホテル・シュヴァリエ』も驚くべき秀逸さである)ウェス・アンダーソン監督の最新作『ダージリン急行』。歯痒くも憎めない、愛すべき3兄弟とともに旅を終えた後にふと湧き上がってくるものは──身近な人への小さな愛情なのかもしれない。
『ダージリン急行』
THE DARJEELING LIMITED
監督:ウェス・アンダーソン
出演:オーソン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、
ジェイソン・シュワルツマン
アメリカ/2007/カラー/104分
2008年3月8日(土)より
シャンテ シネほか全国にて順次公開
世界限定40脚。ハンス・ウェグナー「Yチェア」限定仕様登場 09.09.29 UPDATE