


建築家の映画は難しい。
アーティストが創作に悩む場合、目の前にある自分の作品に直接手を入れるといったヴィジュアルが可能である。例えば、『ハチミツとクローバー』ならば、アート作品を破壊するクライマックス・シーンをもうけているが、同じ映画に登場する建築の学生はそれができない。建築家は、せいぜい机に向かって、ドローイングを描いたり、コツコツと模型をつくるくらいだ。フランク・ロイド・ライトをモデルにした映画『摩天楼』では、勝手に設計変更されたことに怒った天才建築家が現場をダイナマイトで爆破するけれど、極端過ぎて真似できない(TVドラマの『協奏曲』では、木村拓哉がそれをやったのだが)。
だが、『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』を見て、ゲーリーがとても絵になる、たぐいまれなる建築家であることに気づかされた。とくに印象的なのは、スタッフに指示して、紙を曲げたり、折って、切ったり、はがして、作業を進めるシーンだ。ファッション・デザイナーのようだ。制作の過程が絵になる建築。建築とファッションの平行現象を扱う「スキン+ボーンズ」展(国立新美術館にて6月6日から開始)でも、ゲーリーが重要な位置を占めているのがよくわかる。また最新のコンピュータ技術を駆使して、大勢の所員と協力しながらプロジェクトを動かす事務所は、映画の製作とも似ていよう。
おそらく、そうしたシンパシーもあったのではないか。シドニー・ポラック監督は、昔年の友人だけに、実に親密にゲーリーとしゃべる。昨年、ルイス・カーンの息子が父の面影を探求するドキュメント映画『マイ・アーキテクト』も話題になったが、『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』の場合は、仕事だからといって、気構えることがない、友人との会話といった雰囲気だ。それが建築家の心を解きほぐし、次々と大胆な作品をプロジェクト実現するスターの素顔をつかまえる。また施主や批評家など、まわりの人物へのインタビューを通じて、社会的、芸術的な意味をもつ多面的な建築の姿をあぶりだす。
映画の冒頭、何を描いたのかよくわからない、踊るような線が集積したゲーリーのスケッチが出現する。そして、ほとんどそのまま実現したかのようなビルバオ・グッゲンハイム美術館の遠景に切り替わる。ゲーリーの神の手がつむぎだすスケッチ。そしてポラックがカメラを使って、切り取るゲーリーのスケッチ。両者の重なりが、現代建築の魅力を鮮やかに伝えてくれる映画だ。(五十嵐太郎)
『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』
Sketches of Frank Gehry
監督:シドニー・ポラック
出演:フランク・ゲーリー、デニス・ホッパー、ジュリアン・シュナーベル他
2005年/ドイツ・アメリカ映画/上映時間=84分/カラー
2007年6月2日、Bunkamuraル・シネマほかにて公開
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update : 2007.05.25
title : 『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』
text : taro igarashi
五十嵐太郎/建築評論家
東京大学大学院修士課程修了。東北大学准教授。『新宗教と巨大建築』、『終わりの建築/始まりの建築』、『戦争と建築』、『現代建築のパースペクティブ』、『現代建築に関する16章』、『美しい都市・醜い都市』ほか、著書多数。『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』の字幕監修もつとめる。
現代建築に関する16章
講談社 2006/11
美しい都市・醜い都市
中央公論新社 2006/12
世界限定40脚。ハンス・ウェグナー「Yチェア」限定仕様登場 09.09.29 UPDATE