GUARDO - 生命をこの世界に生み出すという奇跡〜『プルミエール 私たちの出産』

GUARDO / 生命をこの世界に生み出すという奇跡〜『プルミエール 私たちの出産』

GUARDO - 生命をこの世界に生み出すという奇跡〜『プルミエール 私たちの出産』

 人が人から生まれるという当然の奇跡は、ここまで美しいのかと思う。見終わった後も、なかなかこの映画から離れることができなかった。

 この映画は、5大陸に渡る、10ヵ国10人の母親の出産を扱った、稀有なドキュメンタリーである。

 医療機関の助けを排除し、自然分娩をする母。イルカが立ち会う、水中での出産を希望する母。過酷な条件、サハラ砂漠の上で出産する母。医療機関の中で、夫に見守られながら出産する母……。風習、考え方はさまざまだが、彼女たちはたくましく、自立心に満ちたその表情はどれも美しかった。

 作品には日本の母も登場し、彼女は「お産の家」として知られる有名な吉村医院で出産する。彼女自身もこの医院で生まれ、また3年前に長女も出産しているのである。ここでは、先祖の自然な生活様式、伝統的な生活をすることで、出産に対するポジティブな条件を整える。吉村医師の役割は、女性が本来持っている力を介助するというものだ。自然に従うことで出産が軽くなり、「女性の源」に触れることができるのだという。

 「女性の源」という言葉は、そのまま映画全体に当てはまるのかもしれない。「女性の源」は「生命の源」であり、「世界・宇宙の源」でさえあるように思われる。出産は、月の動きに影響を受けるのだという。テレビでよくある奇妙に編集されたドキュメンタリーではなく、この映画は、「神秘」にまで踏み込んでいく。生命の誕生、母が自分の胎内から、ひとつの生命をこの世界に生み出すということ。地球上に新たな生命が存在するその瞬間は、恐らく人間が行うことのできる、最上の奇跡のひとつなのだろう。たびたび挿入される美しい自然の映像や、広大な地球の映像もじつに効果的である。

生命をこの世界に生み出すという奇跡〜『プルミエール 私たちの出産』

 
 生まれた赤子は、なぜ泣くのだろうか。
 
 なぜ母親は、子を産む時に痛みを感じるのだろうか。
 
 この映画の「神秘」に触れたことで、色々と考えることも多かった。赤子は泣きたいから泣くのだ、と言われればそれまでだが、もしかしたら、我々には計り知れない意味があるのかもしれない。

 赤子が最も激しく自身を主張するのは「泣く」行為であるから、生まれた瞬間に、赤子は自分の誕生を世界に知らせているのかもしれない。母親が痛みを感じるのは、生まれてきた子供がこれから味わう人生の痛みを、母親が前もって引き受けているからなのかもしれない……。考えは尽きないが、「人の誕生の意味」にまで想いが広がるような、真摯で深く、愛情に満ちた映画なのである。

 映像美は、主題が主題なだけに圧倒的だ。水の中、妊婦をリラックスさせる超音波を出すイルカに見守られながら、赤子が誕生するシーンも見事である。イルカは母親と、美しく膨らんだ母親のお腹を愛しむような、暖かな眼差しを向ける。生命の垣根を越え、生命の神秘により全てが繋がったような、驚くべき一瞬である。赤子は母親の胎内の羊水から、この地球上の水の中へと生まれ出る。監督は妊婦と赤子から丁度いい距離を保ち、慎み深さを守り、しかし確実に、その神秘を捉えようとしている。

 母親と子供が主役であるのは間違いないが、「脇役」である夫たちの姿もいい。
痛みを越え、出産を果たした母親が、小さい赤子を抱く。圧倒的な感動の中心はもちろんそこにあるが、その脇で立ち会い、静かに涙を流す夫の姿も胸に迫る。この見事な監督は、その瞬間も見逃さないのである。

中村文則(小説家)

生命をこの世界に生み出すという奇跡〜『プルミエール 私たちの出産』

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update : 2008.04.24
title : 『プルミエール』


text : fuminori nakamura
photo : THE KLOCK WORX
thanks : fuminori nakamura
thanks : THE KLOCK WORX


中村文則/小説家

愛知県東海市生まれ。福島大学行政社会学部、応用社会学科卒業後、作家になるまでフリーターを続ける。2002年、『銃』で第34回新潮新人賞を受賞してデビュー。芥川賞候補となる。2004年、『遮光』で第26回野間文芸新人賞を受賞。2005年、『土の中の子供』で第133回芥川賞を受賞。近著に『最後の命』


公式HPにてメッセージ募金キャンペーン実施中

開発途上国における妊産婦と子どもの命を守るために発足した国際的活動「ホワイトリボン運動」に、『プルミエール 私たちの出産』が公開にあたり参加している。公式HPの専用ページから「母から子へ」もしくは「子から母へ」のメッセージを送信すると、1件につき50円が作品側から寄付される。詳しくはこちらから。

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