INCONTRO - 多様性に目を向ける〜脳科学者・茂木健一郎の「朝」と「エコ」

INCONTRO / 多様性に目を向ける〜脳科学者・茂木健一郎の「朝」と「エコ」

INCONTRO - 多様性に目を向ける〜脳科学者・茂木健一郎の「朝」と「エコ」

■ 記憶に対してどう向き合うか

 もうちょっと脳の取扱書の話をしましょうか。「創造する」ということを考えたときにね、「記憶に対してどう向き合うか」というのがカギになるんです。覚えているけれど、あたかも忘れているように振舞うというのは成熟した人生を送るうえで大事というか……子供は本当に何も知らないわけでしょう? でも大人は色んなことを経験していて、酸いも甘いも知っている。難しいのは「いかに過去の経験から自分をリリースできるか」ということなんですよね。脳の取扱説明書に、神様はきっとそういうことを書いてくれていると思うんですよ。覚えていなさい、でも忘れたかのように振舞いなさいと。

 記憶ってすごく不思議な性質を持っていて、自分の両親と過ごしていた時に「こういうことがあった」とか、そんなに覚えていないと思うんですが、明らかに影響を受けている。それが人生においていちばん大事なんですよ。ほとんどの人生の大切なことっていうのは、思い出せない記憶として蓄積されていく。それは決して「消える」ということではないんです。だから、いま過ごしている時間は消えていってしまって思い出せないんだけど、だからこそ大事だっていう……いまここにある「何か」をつかむっていう、そういうのが生命の本質だったりするわけです。

■ 記憶に縛られず、可能無限を受け入れる

 そうそう、ここの場所はエコロジーとかを大事にしているんですよね。今日われわれがエコを代弁するのも大事なことなんだけど、どんなにエコが大事だって言っても50億年後には太陽が肥大しちゃうんだから無駄だ、って言い方もできるんだよね。だけど、生きているということはいずれ死んじゃって無駄になるけれど、「何かを大事にする」みたいなこともあるわけでしょ。「いまここにある何かを大事にする」ということと、「忘れる」ということは何か繋がっていると思うんだよね、僕は。その感じわかります? だって考えてみたら無駄だよね。たとえば野球も無駄だし、友達と食事するってのも無駄でしょ?

 僕は小学2年生のときに潮干狩りに行ったのが、なんとなく楽しくて覚えているんです。そのときの写真が、いつの間にか無くなっちゃってさ。そのうち、その写真があったのかどうかも定かでなくなって。記憶のなかの写真は、まだ幕張に潮干狩り場がある時代で、みんなで写ってる。二十歳くらいのときに見て、「あいつもいる、あいつもいる」って言ってたのをはっきり覚えてるんだけどね。その潮干狩りの一日に、何があったかまったく覚えていない。思い出せる記憶としては残っていないんだけど、脳に破片が残っていないかっていうとそうじゃないし、思い出せないからって大事じゃなかったかっていうと、そうでもないわけですから。

 だから朝っていうのは人生のリセットっていうのかな……記憶というものに、あんまりこだわってはいけないんですよ。支配されてはいけない。記憶に縛られていく人は、金魚でいえば水槽のなかでだんだん泳ぐ場所が少なくなっていくわけですよ。本当はなんでも可能なの。だから、いいんだよ。いまここで会社を辞めて、みんなでボーリングに行ったり、飛行機をチャーターしてサンタモニカに行っちゃうとかさ(笑)。そんなことは普通ありえないんだけど、やっちゃった人もいる。ゴーギャンは銀行家だったのにタヒチ行っちゃったもんね。じつは人生って何でも可なんですよ。そのなかで、めくるめく可能無限を受け入れたうえで、いまここに自分がいるという状況を認識するってことが大事なんですよね。Next

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update : 2007.08.02
title : 茂木健一郎@朝エキスポ


text : VAGANCE
photo : VAGANCE
thanks : ken mogi
thanks : umari

茂木健一郎

茂木健一郎/脳科学・認知科学者

東京大学理学部、法学部卒、同大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心の関係を研究し、その活躍は多岐にわたる。著書に『脳とクオリア』『脳内現象』『脳の中の小さな神々』ほか多数。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞を受賞。2006年1月より、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。

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