


■ 自分と異なる考え方をする人こそが宝
社会にはいろんな意見を持つ人がいるけど、それは我々ひとりひとりがより良く生きるための条件のひとつだと思います。なかでも、自分と異なる考え方をする人こそが宝だと。合わせる必要はないです。あくまで決断は自分でやる。ただ、いろんな人の感性に触れるっていうのは大事です。シュミットは春風のように柔らかな人でしたね。そんな人いませんよ。東京には「人の話を聞きに来た」って言うんですよ。「聞く」っていうのは簡単じゃない。自分という楽器をいかに鳴らせるかってことなんでね。「共感する」というのは脳のなかにある機能なんですが、共感するためにはいろんなことから自由にならなきゃいけない。さっきから問題にしている、過去の知識や経験から解き放たれなければなりませんから。つまり、「共感する」ことは「生きる」ことでもある。自分の生き方と切り離して、いま目の前にいる人に没入することができるかってことです。
「セレンディピティ」という、偶然幸運に出会う能力というのがあります。シュミットなんかそうですよね。自分が作った会社じゃないのに5,000億円持ってるもんね(笑)。そのセレンディピティを育むためには、「受け入れる」ことが重要です。他人と向き合って話したときに、意見が違っても反発するだけじゃなく、受け入れることができるか。
■ 人間の身体も「宇宙」という多様性からできている
ライアル・ワトソンっていうネイチャーライティングの大家がいてね、処女作が『未知の贈りもの』っていうんだけど。インドネシアの島で調査するんですよ。海に船を漕ぎ出すと、周りに光が浮き上がってボートを囲むんです。それはイカの目なんですよ。イカの眼球は人間と同じくらい精巧にできているのに、神経細胞は小さくて拙い。じゃあ、なぜ立派な目を持っているのか。そこでワトソンは思うんです。自分たちのために見ているんじゃなくて、もっと大きなもののために見ているのではないか……地球という生態系のために見ているんだ、というインスピレーションを受けるわけ。このインスピレーション、これが自分のなかの楽器を鳴らすってことなんですよ。同じ経験をしても、「イカだ。美味いかな?」。これでは楽器は鳴っていないんだよね。生態系、エコロジーの思想というのはそういうことです。
ジョン・ケージの作品に『4分33秒』という曲があります。ピアニストが出てきて何もしないの。ちょっといま『15秒』という作品を鳴らします……いろんな音が聞こえると思うんですよ。空調の音とかね。ジョン・ケージの作品は、そこがポイントだったの。いかに我々が聞いていないかってことが分かる。ピアニストが出てくるのが現代産業の象徴だよね。楽譜があれば何でも弾くっていうのは素晴らしい文化だけど、クリエイティブというのは自分の内なる音を聞くことです。無意識のうちに自分が何を感じているのか、何を思考しているのか。それが耳を傾けるということです。僕は、エコロジーはそういうことだと思う。生命哲学に結びつけるということは、多様性に目を向ける。でも、最後は自分からは逃げられない。どう生きるか。一度にできるのは一個だけですよね。エコッツェリアに来るって決めたら他のことは何もできない。だけど、可能性は無限にある。その過程で何ができるか、何を見れるか。マルチプル・ヴォイスに耳を傾けるってことですよね。
ということで、朝という話から多様性の大切さまで今日はお話しました。覚えておいて欲しいのは、僕は“脳トレ”の人じゃないですからね。よく言われるんだけど(笑)。僕は、脳科学の論理って生命哲学に結びつくと思うんです。僕たちの身体も「宇宙」という多様性からできているんです。だからね、生きるってことの本質に関わっているの。自分の脳をどう使っていくか。でも、自分を棚上げにして多様性を追うっていうのも違うんです。多様性をどう味わうかというと、自分の身体や居場所をも肯定することから始まり、矛盾する2つのベクトルを大事にしていくことですかね。

update : 2007.08.09
title : 茂木健一郎@朝エキスポ
text : VAGANCE
photo : VAGANCE
thanks : ken mogi
thanks : umari
茂木健一郎/脳科学・認知科学者
東京大学理学部、法学部卒、同大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心の関係を研究し、その活躍は多岐にわたる。著書に『脳とクオリア』『脳内現象』『脳の中の小さな神々』ほか多数。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞を受賞。2006年1月より、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。
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