POSSIEDO - 時空間を超えた指輪進化論〜宇宙飛行士の指輪

POSSIEDO / 時空間を超えた指輪進化論〜宇宙飛行士の指輪

POSSIEDO - 時空間を超えた指輪進化論〜宇宙飛行士の指輪

 現在、アニリール・セルカンは、2010年以降に予定されている有人惑星探査ミッションの宇宙飛行士候補として名を連ねている。そのため1年のうち何度かはNASAに行き、水の中で生活する(水の中は無重力に近いと言われているため)などの特別な訓練を受けている。そのNASAで彼は来日する前、宇宙エレベーターの開発プロジェクトに携わっていたことがある。

 「エレベーターというと人間を運ぶイメージがあるのですが、どちらかというと物質を運ぶためのものと考えた方がいいかもしれません。たとえば、そのエレベーターを使って地球上にはない月にあるヘリウム3という元素を、もし持ってくることができたとしたら、アメリカの1年分の電気がまかなえてしまう。そういった可能性のある物質が宇宙にはたくさんあるかもしれないということを考えると夢はありますよね」

 ということは将来、月から持ってきた今まで地球になかった違った素材で作られた指輪が生まれるかもしれないということでもある。

 「可能性として、ないとは言えませんよね。指輪の話ではないのですが、最近様々な薬品会社から、地球上では混ざらなくても、無重力状態だったら混ぜることができる物質の実験依頼が急激に増えています。そういったことの積み重ねで今後も新しい薬品が開発され、医療の面でも活用されていくと思います」

 宇宙にある素材という話だけではなく、無重力という僕らの知らない空間で様々な物質が開発されている。ということは、開発された物質で指輪が作られることの方が先なのかもしれない。逆に言うと、今後人類が宇宙に住むことになったとき、通常地球で使っている物質が宇宙で使えるのかどうかという疑問もわく。宇宙空間では物質は変化してしまわないのだろうか。たとえばもし、彼が宇宙に行くときに指輪の素材が変質したりはしないのだろうか。

 「基本的に現在、宇宙船の中はアクセサリー類を身につけることは禁止です。たしかに、物質がどう変化するかわからないこともあるかもしれません。それだけ長い期間、宇宙に人類が住んだことがないので、時間とともに起きる物質変化はまだまだ未知の領域でしょうね。あと、宇宙に行くと身体が痩せていきます。骨の中のカルシウムが抜けていくのです。宇宙からの映像を見ると、宇宙飛行士がエアバイクを漕いでいるのを見たことがないですか? もちろん運動不足を解消することもあるのですが、その骨のカルシウムが抜けていかないために運動しているという理由もあります。それでも多少は痩せていきます。指輪をはめていったら抜けちゃうかもしれないですね(笑)。アクセサリーだけでなく、虫歯を削って被せた金属類もダメです。昔、宇宙飛行士は虫歯があるとダメだと言われていましたが、いまは大丈夫です。実際、僕には虫歯がありました(笑)。ただ、皆さんが被せているような金や銀、またはセラミックといった素材ではなく、NASAで特別に作られた素材を被せていますけどね」 

 NASAで開発された素材を使ったランドセルやテンピュール枕というのが話題になったが、まだまだ我々の知らない素材が世の中には登場しているのである。

 「あくまでアクセサリーをつけないという規則はスペースシャトル内の環境においてのルールです。そのスペースシャトルも2010年7月予定の打ち上げが最後になります。今後は“オリオン”という名前の新しい宇宙船が登場するので、その宇宙船の中での規則は変わるかもしれません。オリオン以降、新しい飛行船になっていくうちにひょっとしたら、金や銀のアクセサリーをつけて宇宙に行く時代がくるかもしれないですよね。あくまで可能性ということだけど(笑)」

 可能性の想像をふくらませていくと、アクセサリーをジャラジャラつけた宇宙飛行士が登場する日があるかもしれないということである。

 「可能性としてなくはないですが、今度は重さの問題もあります。宇宙に行くためにはできるだけ軽くしていかないといけない。1キロあたり200万円かかる計算になるんです。普通の海外の旅で預けられる荷物は約20キロですよね? 同じように、宇宙の旅でその荷物を持っていこうとすると4,000万円近くかかる計算になります。この計算は、おそらくスペースシャトルからオリオンに変わったとしてもしばらくは一緒だと思います。そう考えると、アクセサリーをジャラジャラつけた宇宙飛行士が登場する可能性は低いでしょうね(笑)。僕ら宇宙飛行士候補は、そのために体重もコントロールしているくらいですから」

 仮に彼がつけているリングを10グラムとしよう。彼の計算から導いていくと、その10グラムを宇宙に運ぶために2万円かかる計算である。たとえ数グラムの指輪でさえも、宇宙に持っていくということはそれだけ宇宙船にとって負担になる。指輪の進化論。それはすなわち宇宙旅行の進化論が大きく関わっていることだけは間違いなさそうである。

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時空間を超えた指輪進化論〜宇宙飛行士の指輪

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update : 2007.04.19
title : 宇宙飛行士の指輪


text : hidekazu ishihara
photo : takuji onda
thanks : anilir serkan
thanks : office 11d

anilir serkan

アニリール・セルカン

1995年イリノイ工科大学建築学科卒業。1999年バウハウス大学建築学科修士課程終了。2003年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程を修了。JAXA宇宙科学研究本部宇宙構造物工学研究室講師を経て、現在、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教を務める。2001年NASAジョンソンスペースセンター宇宙構造・材料系客員研究員として宇宙飛行士プログラムを終了、2004年トルコ人初の宇宙飛行士候補に選ばれる。現在は先端技術を応用し、インフラに依存しないで暮せる空間技術を開発・研究している。

anilir serkan
『宇宙エレベーター』

大和書房 2006年6月出版

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『タイムマシン』

日系BP 2006年11月出版

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