


青山の、骨董通りをずっと歩いていって、ヘルムト・ラングの角を曲がるとその店はある。表参道の駅からぶらぶらと独り歩きするに、ちょうど良い距離だ。
外観はとびきり変っている。ブルーがかった暗い灰色で、魔法使いが住む洋館のような。「OPEN」というサインがあって、初めて店だと分かる。恐れずに足を踏み出してみれば、ドアが左右に開かれる──そこには、きらきらと虹色に光る、不思議なクリスタルたちが潜んでいる。
『HOYA CRYSTAL TOKYO』。店内はさながら、「大人のための秘密の花園」、といった趣だ。森の中で忘れられた庭園のようで、壁は植物で覆れている。なぜか、そこかしこにウルトラ系の怪人が潜み、楽しい気分にさせてくれる。中央には、愛に関する言葉が書かれた本と、クリスタル製のマッシュルームやオブジェがディスプレイされている。本の横には、そこから引用された言葉たちが並ぶ。
ユーモラスな丸いフォルムを持つ緑のマッシュルームに、思わず微笑み、愛に関する言葉に感じ入る。ところでこのキノコだが、彼女の好みに合いそうだ。可愛いものは好きだが甘すぎるものは身の回りに置かず、ありふれたものより特別なものを喜ぶ彼女。これなら良いサプライズになりそうだ。二つ買って、一つは自分のデスクの上に置いても良いかもしれない。光を反射させるクリスタルの丸みを置くことで、スクリーンばかり見つめて疲れた眼を癒すことができそうだ。

店内には、子供がピアノの練習をしているような、不思議な旋律を持つ音楽が流れている。贈り物のアイデアが、益々膨らんでいく。先刻から、どこか懐かしい気持ちになるのは何故だろう。
そうか、彼女に贈り物を選んでいるからだ。
心が弾んでいる自分に気付いた。いつの間にか横にいることが当然で、相手に対する気持ちもあたりまえのものに変化してしまっていた。愛しい人に贈り物を選ぶことが、こんなに楽しいのだということを、すっかり忘れてしまっていた。でも今は、出会った頃の彼女に対する自分の気持ちが、自然に思い起こされている。だから、ここにいると懐かしい気がするのか。
正直言って、はじめはヴァレンタイン・デイのお返しとして、義務に似た気持ちでプレゼントを探していたのだが。店に入る前と全く違う、ある意味クリエイティブな気分でここにいる。この店は本当に不思議だ、「贈り物をする楽しさ」までを、思い出すことが出来るのだから。ついでに、店の奥にある本棚には素晴らしいセレクションの本が並んでいる――もちろん、彼女へのプレゼントと共に自分のためにも本を数冊購入した。
すっかり満足して、店を出る。さて、どんな言葉と共に、これを渡そうか。彼女の笑顔を思い浮かべる。
嬉しい、ありがとう。一体どこで買ったの?――そんな言葉が聞こえたら。彼女の手を取って、あの花園を再び散歩するとしよう。
update : 2008.02.25
title : HOYA CRYSTAL

text:akira kuroda
photo:fumio ando
thanks:HOYA CRYSTAL

HOYA CRYSTAL TOKYO
骨董通りを1本入った裏道に2007年10月オープン。クリスタルの価値を見直し、プロダクツは職人によるハンドメイド。また中村拓志氏が手掛ける「虚構世界」をイメージした空間デザインやBACHによるライブラリーもみどころ。3月中旬まで新色のローズとグリーンのキノコのオブジェに、“LOVE”をテーマとしたBOOK&CDも発売する「CRYSTAL of LOVE」を展開。
黒田晶
1977年千葉県生まれ。『メイドインジャパン』で第37回文藝賞受賞。
『青空』 ジョルジュ・バタイユ
(1998 晶文社)
世界限定40脚。ハンス・ウェグナー「Yチェア」限定仕様登場 09.09.29 UPDATE