


──(栩秋)実際の採寸ってどうしているんですか?
うちの店では採寸をするためのサンプル着物を作っています。その方の身体にいちばん近いサンプルを着ていただいて、それをもとに細かく採寸していきます。洋服のような立体裁断ではないので、だいたい当たる箇所は決まっていますが、それでも結構な数……十数か所を当たっていきますね。
──採寸してから仕立てが終わるまで、フルセットだとどれくらいの時間がかかりますか?
フルセットになると1ヶ月くらいですかね。専属の仕立て屋さんが縫ってくれるか、縫製専門の工房に出します。綿の着物なら3週間ぐらいで出来ます。ただ、ほしい洋服を買ってすぐに着ることが出来るこの時代に、僕がオーダーにこだわっているのは、“待つ時間”込みで楽しんでいただくということですね。あと、スーツをオーダーすると値段が張りますよね? この着物だとそこまで値段が張らないので、若い人でもオーダーという感覚が気楽に味わえる。実際にしっかり採寸しているので、「袖が長いけどしょうがないや」っていうことが無いですよね。なんでお客さんのほうが我慢せなあかんの? っていう……ちょっと着てみますか?
──(栩秋)いいですか? 僕は身体が細いから、腰周りがすごく薄くて、なかなか様にならないのかなあって思うんですが。
フォーマルな場での着物は腰周りを補正したりしますが、いわゆる昔の町人のような着流しのスタイルは、腰骨に帯を引っ掛けるように着ていたので、べつに腰周りが開こうが、それが着物の楽さだったんですね。普段の着物で腰周りを作るなんて邪魔くさいわけですから、腰骨で帯を蝶番でひっかけるように着ていたと思います。それと、和装の肌着というのは補正の役目もしてくれますからね。帯がお腹の上のほうまで戻ってくるっていうのは、単に着慣れているかいないかの問題が大きいです。だから細い人でも着慣れてしまえば似合うんですね。
──(栩秋)着慣れるっていうのは所作の問題なんでしょうか?
そうですね、所作が着物に合ってくるんでしょうね。たとえばナンバっていうのは、上半身が動かないので着崩れ難いですね。日本人の動きが元々そうであったように。昔はみんな、着物の腕を振って歩いていなかったみたいですからね。着物はこれだけ大きな面積がありますから、手を振らないほうがキレイで自然なんですよ。上半身が動かなければ、帯が上がってくることもそんなにないし。所作ひとつとっても西洋とそれだけ大きな違いがあるので、東にはこういう価値観があるよっていうことを僕らは示すべきだと思うんですよね。
──立ち居振る舞いも和服を着ていると変わりますよね。上品で美しいというか。
自然にそうなっちゃいますよね。意識さえすれば、袂を守るっていうだけでキレイになる。その細かい日常の生活の仕草を、着物を着なくなった日本人は忘れてしまうんだなあっていう残念な気持ちがあります。
──着物を着続けている人というのは、着物の身体になっていくような気がするんですが、あれはいったい何なんでしょうね?
そう、“何なんでしょうね?”なんですよ(笑)。たとえば、着物を着て動きがすごく制約されます。この制約を多くの人は「ああ、やっぱり着物あかんわ」って思いますが、“何なんでしょうね?”っていうタイプの人は「この動きのなさを千年以上やってきたのは何でや? どこかに意味があるはずや」と思うわけです……実際あるんですけど。本当は動き難いものでもないですし。素直に、先入観なしに着物を捉えていくと、「なるほど、このカタチはこういうことなのか」とかって着物に教わるんですよね。みなさんにはそれを考えるきっかけぐらいまで着物に触れてもらえたらいいなと思います。パーティーで3分の1くらいの人が着物を普通に着ている世の中に……何十年かしたらなるんじゃないかなあって思って、僕はこの店をやっています。
──(栩秋)あー、楽ですねこの着物。締まらなくて、すべてが開いていていいですね。安定感もあるし。
上はゆったり着れるので楽なんですよ。男性の着物はこれくらいゆったり着るものですよね。
──(栩秋)色の合わせ方は決まっているんですか?
いま着ていただいている、この色の合わせ方が男性の着物のひとつの特徴ですね。微妙に合わせていく、淡く合わせていくっていう着物ならではです。
──(栩秋)……なんかいいかも、着物(笑)。
着物を着たり仕立てたりすると、気持ちが入る人が多いですね。僕ね、最初にこの着物屋を始めるときには「世の中に仕掛けてやろう」っていう思いがあったんですよ。でも実際にやっていくうちに、もう……よくぞこの仕事を授けて下さった、という気持ちに自然になりましたね。「世の中に仕掛ける」とかっていうのではなく、必要だからやってるんだなと。だから着物に感謝していますし、店をやっている自分がいちばん楽しんでいるかなあと思いますね。
笑顔で語る張田さんに、最後に「あなたにとって着物とは何ですか?」というベタな質問をあえて投げかけてみた。コピーライターとして活躍されていた張田さんから、いったいどんな言葉が出てくるんだろう、という少し不純な好奇心があったのは否めない。
「なんだろうな……着物って“気付き”ですね。気付きが次の時代をつくっていくと思うんですけど、着物は日本人としてこれからをどう生きていくかの“気付き”ですよね」
なるほど、『えいたろう屋』や張田さんの言葉には気付きのヒントがたくさん散りばめられているわけだ、と、また気付かされた。

update : 2007.03.16
title : 京都烏丸“えいたろう屋”
text : VAGANCE
photo : shinji kubo
thanks : yasunori harita
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thanks : taiyo tochiaki
thanks : shunro fukuyama
男のきもの えいたろう屋
〒604-8166 京都市中京区三条通烏丸西入北側 文椿ビルヂング1階東南角(三条烏丸ホテルのすぐ前)
TEL / FAX:075-211-2255
栩秋太洋/舞踏家・役者
1998年から舞踏カンパニー“山海塾”で活躍する一方、ミュージシャンとのセッションを中心としたソロ活動も数多く行う。役者として近年はチェルフィッチュに出演。
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