


これは未だ見ぬあなたへのラヴ・レター。今この瞬間に、世界のどこかで僕と同じ予感を抱える君へ。
2月、Februaryの語源となったのは、ローマ神話における戦死者の魂を鎮める神であるフェブルウスだ。太陽の下で生命が蠢きさざめく季節からはまだ遠く、死の気配が強く残る月。この、冥界に住むといわれる神が統治する月に、僕は彼女への特別な儀式を行う。必要なのは独りの時間とキャンドル。そして儀式のために最も大切なものが──闇だ。
人工太陽を全て部屋から追い出すと、生きるために鈍感にならざるを得なかった僕の眼は、暗闇の優しさを思い出しはじめる。時間と空間の境界線が曖昧になる瞬間を待ち、供物を捧げよう。キャンドルに火を点ける。小さな炸裂音と共にマッチの先から発生し、息吹によって消える火。そのスパークして躍動し、やがて絶えゆく生命の象徴は、キャンドルに移されることで束の間の永遠を謳歌する。
キャンドルに火を燈すことは、祈りという行為そのものだ。

一点の灯りが燈された部屋の中。オレンジ色に照らされながら、僕と彼女を想う。ねえ、君。確信があるんだ。『恋人たち』とは、同じ周波数を受信するようにチューニングのあった二台のラジオみたいなもの、誰かがそう言っていた。でも僕らはそうじゃない。二人は同じラジオ・ステーション内にいて、同じ周波数を同時に発信しているから。きっと、近すぎて見えないこともある。あなたの存在を確信しながら出会えていないのは、きっとその所為だ。彼女の発信するサウンド・ウェーブ。複雑に構成されたダンスで軌跡が跳躍する。僕らは月から地球を眺めるように、それを同時に幻視し、共鳴する。
僕の見えない指先がなぞるのは
君のなめらかな皮膚の表面
炎が燃え盛る水晶体の奥深く
君のやわらかい睫毛がふと、震える。
僕らは愛し合うために出会い、陳腐な言葉の応酬を幾らか遣り合うだろう。そしていつしか二人の息が重なって、キャンドルの火は消える。永遠の魂が消え、僕らは静寂に吸い込まれていく。その時が満ちるまで僕は待ち続け、彼女にこうして信号を送り続ける。
地球の空を夜間飛行し続ける彼女よ、どうかここへと無事辿り着きますように――僕はキャンドルに火を燈す。
update : 2008.03.10
title : candleJUNE

text : akira kuroda
photo : shinji kubo
candle : CandleJUNE
Candle JUNE
世界各地で火を灯す
2001年に広島で「平和の火」を灯してから「Candle Odyssey」と称する争いのあった地を巡り火を灯す旅を始める。
アメリカを横断、N.Y,グランド・ゼロで火を灯し、その後アフガニスタンへ。国内各地を灯しながらも、カンボジアの孤児院を巡り、パリコレクションに演出で参加すると共にテロ事件のあったロンドンも訪れる。05年より終戦記念日に中国チチハルにて火を灯す。また新潟中越地震被災地川口町をはじめとした震災地でもイベントを開催する。
悲しみが続く限り、灯し続ける
1994年にキャンドルの制作を始める。ギャラリーやサロンなどでエキジビションを開催。ファッションショー、レセプションパーティのデコレーションや、Fuji Rock Festivalをはじめとする野外イベント、Ben Harper、Neil Young、M.M.Wなどのライブステージにキャンドルを中心とした空間演出で参加。
火を灯す旅はまだまだ続く
黒田晶
1977年千葉県生まれ。『メイドインジャパン』で第37回文藝賞受賞。
世界限定40脚。ハンス・ウェグナー「Yチェア」限定仕様登場 09.09.29 UPDATE