SENTO - Marginalia〜ダミール・ドーマのインスタレーションより

SENTO / Marginalia〜ダミール・ドーマのインスタレーションより

SENTO - Marginalia〜ダミール・ドーマのインスタレーションより

 ヴェールは隠す。

 ヴェールは覆う。

 ヴェールは機能する。彼岸と此岸を柔らかく隔てる境界線として、あるいは此岸から彼岸を通して見るために。輪郭が曖昧になった外界と内界は、いまや緩やかにひと続きのものとなり、すべては声無きものたちの音で溢れ、存在への感覚は蜜状に流れてゆく。風にそよぐヴェールが描く流線型の軌道、それに人類が共通して意識の奥底に眠らせる暖かい古の記憶、それだけが確かなものとして私達には残されている。

 2日間限定で行なわれたインスタレーション『VEIL』は、デザイナーであるダミール・ドーマと映像作家であるアレッサンドロ・ティネリのコラボレーション作品だ。照明の落ちたギャラリー内に掲げられた、特別なフォイルで作られた二つのスクリーン。「ストーリー1」となる右手の小さなスクリーンには、ヴェールが永遠を象徴するかのようになびいている。正面に位置した「ストーリー2」のスクリーンには、幻想的でいてどこか懐かしい、誰かの記憶を覗いているかのような映像が映し出される──地を這うアリ、光、蝶が羽化する瞬間、薄く柔らかな布で覆われた人間の身体。森の中で木々が創る影、水辺の波紋。自然そのものの映像と、ヴェールを脱ぎ去り新たな生命が誕生する映像が交差するスクリーンを見るうちに時間の感覚は失われ、知らずのうちに観客は、マージナルな意識点へと連れ去られる。

 今回、このインスタレーションのために来日したダミール・ドーマ氏と、東京在住のアレッサンドロ・ティネリ氏に話を伺った。

──ダミールさんはクロアチア生まれでドイツ育ち、そしてアントワープでキャリアを積んだそうですね。

ダミール:はい、でも今はパリに住んでいます。一年前から。

―─そうやって頻繁に移動して暮らしているなかで、自分のナショナリティについてはどう感じていますか? 考え方などに影響がありますか?

ダミール:ナショナリティという意識は全然ないですね。かなり広義な意味で感じるくらいで……大陸出身者とか、ヨーロピアンとかね。「この場所に属している」と感じることはありません。私自身、ノーマディック(放浪者的な)ところがありますしね。引越しを頻繁にしているだけじゃなくて、旅行も沢山しているし。常に動いているような状態です。

―─そして、今まさに東京でインスタレーションを行なっているわけですが。日本はどうですか? ヨーロッパとアジアの違いは際立っていますか?

ダミール:それはそうですね。とても違う。日本の人々は、とても落ち着いていて礼儀正しいし……そういう部分は私個人のパーソナリティに非常に近いんです。だから、日本人に囲まれているのは、とても心地良いです。

Marginalia〜ダミール・ドーマのインスタレーションより

―─日本人と自分は似ているとのことですが、インスタレーションの紹介文から、落ち着いて静的な、禅仏教のような感覚を得ました。この文章はあなたが書いたんですか?

ダミール:これは、フランス人作家が私たちのために書き下ろしたものです。彼女は一年ほど前から私のためにテキストを書いてくれていて、私の考えや感覚を知り尽くしています。コレクションのためのイメージテキストや、プレスリリースを全部引き受けてくれているから。

アレッサンドロ:ニナ・ファウル。

ダミール:そう。彼女はフランスとノルウェイのミックスで、面白い人ですよ。どうやってこの文章を書いてもらったかというと、まず今回のビデオを渡して、それを観た彼女に、感じたことや印象を書き下ろしてもらいました。先ほど言ったとおり、彼女は私のバックグラウンドを知り尽くしているので、非常に的確なものを書いてくれたと思います。

―─なるほど。彼女による、あなた方の作品の翻訳がこのテキストというわけですね。

アレッサンドロ:そう。それで、もらったテキストから文章を抜き出したんです。

ダミール:3ページぎっしりと書いてくれたなかから。

アレッサンドロ:べつに彼女は物語を書こうとしたわけではなくて、ビデオを観て呼び起こされた感情をすべて書き写そうとしたんです。考え抜いてやったのではなく、即興的に。

ダミール:だから、すごく素直でシンプルな文章だった。それで、いくつかの箇所を選んで抜粋したわけです。とても気に入っています。

アレッサンドロ:そう。作品自体をとても良く表しています。

ダミール:作品を観る人が、作品をより良く理解することの助けになると思う。

―─アレッサンドロさんは現在日本にお住まいだそうですが、元々のご出身は?

アレッサンドロ:イタリアです。ペルージャという……中田がいたサッカーチームの本拠地です(笑)。日本の人にペルージャについて説明するのはとても簡単です。中田がいなかったら、誰も知らないでしょうが(笑)。ちょうどイタリアの真ん中あたりにあります。そこで育って、暮らしていました。勉強したのは美術です。油絵とか……でも先生はとても自由に色々やらせてくれたので、ビデオを使って作品を創りました。Next

Marginalia〜ダミール・ドーマのインスタレーションより

ARCHIVE
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update : 2008.12.29
title : DAMIR DOMA


text : akira kuroda
photo : HIRAROCK
thanks : damir doma
thanks : alessandro tinelli
thanks : Lift


Damir Doma

Damir Doma

1981年クロアチアに生まれる。ドイツで育ち、ミュンヘンとベルリンにてファッションを学ぶ。その後、DIRK SCHONBERGER、RAF SIMONSのアトリエにてキャリアを重ねる。2006年、アントワープにベースを構え、自身のブランドをたちあげ、2007年6月にパリで初のコレクションを発表し鮮烈なデビューを飾る。いま最もヨーロッパのモード界から注目を浴びているデザイナーの一人。


Alessandro Tinelli

Alessandro Tinelli

イタリア生まれ。ペルージャの“P.Vannucci”にてファインアーツを専攻。後に数々のコラボレーション企画においてメインのクリエーションを手がける。2004年よりそのアート作品は合同展示会、個展にて大きな注目を集めている。



黒田晶

1977年千葉県生まれ。『メイドインジャパン』で第37回文藝賞受賞。

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